【長編】戦(イクサ)林羅山篇
悲痛な出来事
 道春にも悲痛な出来事が立て続
けに起こった。
 六月に道春を長男として受け入
れてくれた東舟の父、林信時が老
衰で死に、その数日後に後継者と
して頼もしく見守っていた長男、
叔勝が病死したのだ。
 江戸で叔勝の葬儀を済ませると
京に向かい、すでに信時の葬儀を
済ませて泣きつぶれていた東舟を
励ました。

 御所に入った春日局は和子に会
い、体調を気づかった。しかし和
子は不満だった。
「福、こたびのことは父上がされ
ているのですか、兄上がされてい
るのですか。我が子を亡くして悲
嘆にくれておられた帝に対して疑
いをもつなど、むごいなさりよ
う」
「お怒りはごもっともにございま
す。しかし大御所様のお嘆きもご
理解ください。あまりの落胆に混
乱されていたのです。上様は病に
お倒れになり、大御所様をお止め
出来なかったのです」
「そのような言い訳。もう私には
どうすることも出来ません。せめ
て帝を自由にしてさしあげたい」
「そのことで私は参ったのです。
どうか帝に会えるようにお取り計
らいください」
 春日局の意外な応えに和子は一
るの望みを託し天皇を説得して春
日局と対面することになった。
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