【長編】戦(イクサ)林羅山篇
突然の譲位
「急な譲位となればそれなりの理
由が必要。……やはり病か」
「それがよろしいでしょう。御譲
位の後の口実です。もはや大御所
様も強くお留めだてしないでしょ
う」
「それで家光は」
「上様は興子様に御譲位されるの
であれば大御所様を説得できると
申しておられます」
「そうでしたか。すでにそちらの
手はずは整っていたのですね」
「そうでなければ私のような者が
帝に拝謁などできるわけがありま
せん」
「そなたは強いな。和子はそなた
を見て育ったのか」
「いえ。女は母になれば誰でも強
くなるものです。子のためら命も
惜しみません」
「そのこと、よく覚えておこう」
十一月
突然、後水尾天皇は病気治療を
理由として和子との間に産まれた
長女、興子を内親王として譲位を
した。天皇のままでは病気治療で
きないため、やむおえず上皇にな
るという策を講じたのだ。
由が必要。……やはり病か」
「それがよろしいでしょう。御譲
位の後の口実です。もはや大御所
様も強くお留めだてしないでしょ
う」
「それで家光は」
「上様は興子様に御譲位されるの
であれば大御所様を説得できると
申しておられます」
「そうでしたか。すでにそちらの
手はずは整っていたのですね」
「そうでなければ私のような者が
帝に拝謁などできるわけがありま
せん」
「そなたは強いな。和子はそなた
を見て育ったのか」
「いえ。女は母になれば誰でも強
くなるものです。子のためら命も
惜しみません」
「そのこと、よく覚えておこう」
十一月
突然、後水尾天皇は病気治療を
理由として和子との間に産まれた
長女、興子を内親王として譲位を
した。天皇のままでは病気治療で
きないため、やむおえず上皇にな
るという策を講じたのだ。