【長編】戦(イクサ)林羅山篇
徳川義直の寄進
八月にようやく亀の体調も良く
なり、道春は江戸に戻る途中、京
に向かう酒井忠世、土井利勝らに
会い、天皇が譲位した興子が明正
天皇となる即位の儀に加わるよう
に家光から命がくだっていること
を伝えられ、京に引き返した。
明正天皇、即位の儀は厳かに行
われ、その様子を狩野探幽が絵に
し、道春が記録して江戸に戻っ
た。
しばらくして幕府から道春に上
野、忍ヶ岡に五千三百坪の土地と
そこに私塾を建てるようにと金二
百両を賜った。以前にも京に私塾
を建てる機会はあったのだが、大
坂の合戦が起こり立ち消えになっ
ていた。
かつて小早川秀秋の養父、隆景
は下野の足利学校で学んだことの
ある僧侶、白鴎玄修を筑前に呼
び、名島城内に学校を設けて、足
利学校と同様の学問を家臣やその
子息に教えさせた。道春はふとそ
んなことを思い出していた。
上野、忍ヶ岡といえば天海が広
大な土地を整備した東叡山が近く
にある。それとは比較にならない
広さの土地だが、幕府が私塾を支
援するのは異例のことだった。
道春は早速、塾舎と書庫を建て
ることにした。すると家康の九
男、尾張の徳川義直から孔子を祀
る先聖殿の寄進があった。以前、
東舟から「天海は孔子の末裔では
ないか」と聞いたことがあった。
(天海殿には快く思われていない
はず。それを和らげるためのご寄
進だろうか。しかし義直殿がな
ぜ)
道春はなんともいえない奇縁を
感じていた。
なり、道春は江戸に戻る途中、京
に向かう酒井忠世、土井利勝らに
会い、天皇が譲位した興子が明正
天皇となる即位の儀に加わるよう
に家光から命がくだっていること
を伝えられ、京に引き返した。
明正天皇、即位の儀は厳かに行
われ、その様子を狩野探幽が絵に
し、道春が記録して江戸に戻っ
た。
しばらくして幕府から道春に上
野、忍ヶ岡に五千三百坪の土地と
そこに私塾を建てるようにと金二
百両を賜った。以前にも京に私塾
を建てる機会はあったのだが、大
坂の合戦が起こり立ち消えになっ
ていた。
かつて小早川秀秋の養父、隆景
は下野の足利学校で学んだことの
ある僧侶、白鴎玄修を筑前に呼
び、名島城内に学校を設けて、足
利学校と同様の学問を家臣やその
子息に教えさせた。道春はふとそ
んなことを思い出していた。
上野、忍ヶ岡といえば天海が広
大な土地を整備した東叡山が近く
にある。それとは比較にならない
広さの土地だが、幕府が私塾を支
援するのは異例のことだった。
道春は早速、塾舎と書庫を建て
ることにした。すると家康の九
男、尾張の徳川義直から孔子を祀
る先聖殿の寄進があった。以前、
東舟から「天海は孔子の末裔では
ないか」と聞いたことがあった。
(天海殿には快く思われていない
はず。それを和らげるためのご寄
進だろうか。しかし義直殿がな
ぜ)
道春はなんともいえない奇縁を
感じていた。