【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天海との追号争い
 東舟が食下がった。
「しかし太上天皇の尊号とするの
であれば、ここで決めることは出
来ません。朝廷に奏請する必要が
あります」
「なにを申すか。それでは拒否さ
れるのが目に見えておる。密かに
帝のもとに参り、勅号をいただく
のじゃ」
 道春が苦笑いして言った。
「名ばかりの神になったところで
なんになりましょう」
「黙れ。お前らのような若僧にな
にが分かる。天下泰平は黙ってい
て転がりこんでくるようなもので
はない。かつての戦乱の世に戻ら
ぬためにもここで一気に推し進め
ねばならんのじゃ」
「焦って事を進めて良い結果に
なったことはありません。知恵の
ない力ずくは下策にございますぞ
天海殿」
 天海と道春の口論に東舟が加わ
り、次第に罵声をあびせあうよう
になった。そこで中立の立場を
保った崇伝が協議を中断させ、家
光に決断を求めた。
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