【長編】戦(イクサ)林羅山篇
朝廷の態度
 家光は秀忠の追号の協議で結論
が出なかったことを聞き、この機
会に朝廷がどのような態度に出る
かを探るため、道春に衡岳院太上
天皇の尊号も含めて朝廷に奏請す
るよう命じた。
 道春は二月に江戸を発ち、京に
着くと京都所司代の板倉重宗、元
内大臣の三条西実条、武家伝奏の
日野資勝らと会い、秀忠の追号を
奏請した。
 しばらくして江戸に戻った道春
は家光のもとに向かった。
「上様、ただいま戻りました。大
御所様の追号のこと、朝廷として
は大御所様が太上天皇の尊号にふ
さわしいお方ではあるが、帝とな
られたことはなく、まずは正一位
を贈り、太政大臣とするのが順当
であろとのことにございます」
「ふむ、もっともなことだ。これ
で朝廷の面目が立ち、民の動揺も
ないであろう。道春、大儀であっ
た」
「恐れ入ります」
< 198 / 259 >

この作品をシェア

pagetop