【長編】戦(イクサ)林羅山篇
明の衰退
「朝鮮はどちらに味方しておるの
ですか」
「ヌルハチの頃は明に味方して
おったようですが、今は金の勢力
が強くなって、攻めこまれたとも
聞きました」
「そうですか。二百年続いた明で
も、そうですか」
「それにはどうも豊臣秀吉公の朝
鮮出兵がきっかけになっているよ
うなのです。明が朝鮮出兵に気を
取られている間にヌルハチが力を
つけたらしい」
「知りませんでした。活所殿、よ
く教えていただきました。ありが
とうございます」
「いえいえ。羅山殿にはこの世を
良き方向に導いてもらわねばなり
ません。そのためには私も微力な
がらお力になればと思いまして。
ここに集まった者は皆、そう思っ
ておるのです」
 皆、うなずいた。
「責任重大ですね。皆さんのご期
待にそうよう、力を尽くしてまい
ります」
「おぅ、そうそう、羅山殿には東
舟殿という強いお味方がおられま
すが、春勝殿も立派になられまし
たぞ」
「春勝が、あの子は東舟をはじめ
貞徳殿、活所殿に教えを乞いまし
た。そのお力添えがあればこそで
す」
「いやぁ。教えても己のものにし
なければ意味がありません。血筋
でしょうな。蛙の子は蛙、いや、
鷹の子はやはり鷹だったというこ
とでしょう」
「恐れ入ります」

 道春は自宅に戻ると春勝に断髪
させ、春斎という号を与えた。そ
して十月になって家族全員で江戸
に向かった。
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