【長編】戦(イクサ)林羅山篇
東舟の死
 八月
 突然、東舟が病に倒れ、道春が
駆けつけたがすでに息を引取った
後だった。
 道春よりも儒者としての才覚は
あったが、弟としてよく我慢して
補佐し、道春を今の地位まで高め
た東舟の顔は満足そうだった。
「私がいなければ儒者としてもっ
と大成したであろうに。すまん」
 そう言って肩を落とす道春に側
にいた東舟の子、永甫が声をかけ
た。
「伯父上がおられたからこそ父上
はここまでやってこれたのです。
いつも申しておりました。自分の
ような者が大御所様や上様のお側
に仕えることが出来るなど夢のよ
うじゃ。これはすべて兄上のおか
げ。お前も伯父上を見習ろうて励
め、と」
「そうか、そのようなことを」
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