【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天海の死
 母親を失ったような落胆した家
光のもとに太田資宗が道春らが作
成した諸家系図の検査を終えて
持ってきた。
 表紙に「寛永諸家系図伝」と書
かれ、漢字本百八十六巻、仮名本
百八十六巻の合計三百七十二巻に
もなっていた。
 家光はその一つをゆっくりとめ
くりながら、自分のもとに多くの
家臣が仕え、支えていることを実
感した。
「これがわしを励ましてくれてい
るようじゃな」
 家光はつぶやくように言って、
精気をとりもどした。しかしそれ
もつかの間、今度は天海が死んだ
という知らせが入った。
 早くから家康に仕えて最後まで
生き残り、江戸を整備し繁栄する
基礎を築き、政務にも深くかか
わって家康を神にまで昇華させた
怪僧を家光は尊敬していた。
 今の大飢饉は天海の衰えと共に
やって来たのかと思わずにはいら
れなかった。
 京では道春らが何も知らず、明
正天皇の退位と第四皇子、紹仁の
後光明天皇即位を淡々と見守って
いた。
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