【長編】戦(イクサ)林羅山篇
振と春徳
秋になって、十七歳になった道
春の娘、振が亀の弟、荒川宗竹の
子、宗長に嫁ぐことになり、振は
京に旅立った。
春斎は東舟が住んでいた旧宅を
貰いうけ、守勝は父や兄と同じよ
うに幕府に仕官することになっ
た。しかしこれまで守勝は髪を
切っておらず、仕官も気が進まな
かった。
「父上、私は今のまま儒学を極め
とうございます。仕官など私の性
に合いませぬ」
「それは分かっておる。できるこ
とならお前の好きなようにさせて
やりたい。しかし今はまだ天下泰
平が磐石とは言えぬ。いつ動乱が
起きるか分からぬではお前の儒学
を極めたいという道も断たれよ
う。それを心配しての仕官なの
じゃ」
亀も心配そうに話した。
「父も母もいつまでお前を見守っ
てやれるかわかりません。そなた
だけが気がかりなのです。親孝行
をすると思って聞き分けてくれぬ
か」
「そのように言われると嫌とは申
せません。しかし父上や兄上のよ
うになれるとは到底思えません。
過大な期待はおやめください」
「分かった。分かった。よう決断
してくれた。それだけで嬉しい
ぞ」
道春と亀はホッとして喜んだ。
そしてすぐに守勝を剃髪し、春徳
という号を与えた。
十二月末に春徳は初めて江戸城
に登城し家光に拝謁した。
春の娘、振が亀の弟、荒川宗竹の
子、宗長に嫁ぐことになり、振は
京に旅立った。
春斎は東舟が住んでいた旧宅を
貰いうけ、守勝は父や兄と同じよ
うに幕府に仕官することになっ
た。しかしこれまで守勝は髪を
切っておらず、仕官も気が進まな
かった。
「父上、私は今のまま儒学を極め
とうございます。仕官など私の性
に合いませぬ」
「それは分かっておる。できるこ
とならお前の好きなようにさせて
やりたい。しかし今はまだ天下泰
平が磐石とは言えぬ。いつ動乱が
起きるか分からぬではお前の儒学
を極めたいという道も断たれよ
う。それを心配しての仕官なの
じゃ」
亀も心配そうに話した。
「父も母もいつまでお前を見守っ
てやれるかわかりません。そなた
だけが気がかりなのです。親孝行
をすると思って聞き分けてくれぬ
か」
「そのように言われると嫌とは申
せません。しかし父上や兄上のよ
うになれるとは到底思えません。
過大な期待はおやめください」
「分かった。分かった。よう決断
してくれた。それだけで嬉しい
ぞ」
道春と亀はホッとして喜んだ。
そしてすぐに守勝を剃髪し、春徳
という号を与えた。
十二月末に春徳は初めて江戸城
に登城し家光に拝謁した。