【長編】戦(イクサ)林羅山篇
真実を解き明かす道具
 南蛮寺にはキリシタン信者だけ
ではなく、ハビアンと林羅山が論
争をしているという噂を聞きつけ
た庶民も集まって来ていた。
 今度はハビアンが問いただし
た。
「では羅山殿は日や月が丸いのを
どのように考えておられるのです
か」
「丸いからといって球体とは限ら
ない。丸い盆や銭のような形をし
ていて、丸い面をこの地に見せて
いるのです」
「月には満ち欠けがありますが、
その影は球体にできる影と同じで
はありませんか」
「それは…、その影自体が丸いの
です。ハビアン殿も影絵をご存知
でしょう。何かの丸いものの影が
月にかかっているのです」
「そうでしょうか」
 ハビアンはそう言って側に置い
てあった箱から凸面鏡とプリズム
を取り出した。
「かの地ではこのような道具を利
用して日や月を調べ、真実を解き
明かそうとしております」
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