【長編】戦(イクサ)林羅山篇
竹千代の母
 菅得庵が曲直瀬玄朔から手に入
れた牛黄などの薬材は家康のもと
に届けられ、家康自らの調合によ
り薬となって早馬で秀忠のもとに
届けられた。
 間もなく竹千代の高熱は下が
り、快方に向かった。これを世間
では「大御所様の薬により、竹千
代様の病が治った」と噂が広が
り、家康の意外な一面が知られる
ようになった。
 家康は福の日夜をとわず、身を
ていした看病に心を動かされた。
そこで家康は側近でもっとも信頼
している陰陽道を極めた僧侶、南
光坊天海に相談して福を竹千代の
母とした。これはかつて豊臣秀吉
と淀君の間に生まれた後の秀頼を
秀吉の家臣、松浦重政が拾ったこ
とにし、名も拾い子ということで
拾丸と名付けたのと同じように病
魔除けの意味があった。
 さらに福は竹千代のお守役に任
命され、永く留まることになっ
た。
 そして羅山も家康に呼ばれた。
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