【長編】戦(イクサ)林羅山篇
駿府城
 駿河、駿府城に入った道春は三
百俵の待遇で召抱えられ、後に駿
河文庫と呼ばれるようになる家康
の所蔵する膨大な書物の管理を任
され、書庫の鍵を渡された。
 書庫に入ると薄暗く、ひんやり
としてまるで牢獄のようだった。
 小早川秀秋の頃からしてみれば
五十一万石の大名から三百俵の僧
侶扱いと奈落の底に落ちたような
違いだったが、道春にみじめさは
なかった。
 今までは豊臣家や毛利一族とい
う後ろ盾があり、その力を利用し
ていたに過ぎない。これからが自
分の力を発揮する時と気力が増し
てきた。
 しばらくは家康のお呼びもかか
らず、暇な時は遠出をして駿河の
各地を見て回った。
 ちょうどこの頃、土木工事の名
人、角倉了以が富士川に船路を整
備していた。
(これが大御所様の統治のやり方
か。すごいものだ)
 別の村に立ち寄った時、道春の
足が止まった。
< 38 / 259 >

この作品をシェア

pagetop