【長編】戦(イクサ)林羅山篇
後継者
 秀吉は晩年に関白を養子の秀次
に譲り、太閤となって朝鮮出兵に
専念するつもりでいたが、それに
失敗し秀次との間に不和が生じた
ため秀次を切腹に追い込んだ。
「私もそれを心配しているのです
が、秀忠様は大御所様の実子です
し、それほど愚鈍でもないように
見受けました。それでもやはり争
うことになるのでしょうか」
「愚鈍ではないからこそ、その能
力に目覚めた時が恐ろしいの
じゃ。子はどうしても父を超えよ
うと躍起になる。周りの家臣もそ
れを望むであろうからな。早いう
ちに次の後継者を決めること
じゃ」
「もう後継者を決めるのですか」
「そうじゃ、大御所様の健在なう
ちに後継者を決めて秀忠様をその
後見人にする。そうすれば秀忠様
や家臣に無用な欲望を抱かせず、
秀忠様も後見人として実権を握る
ことができるので、自尊心を傷つ
けることもないだろう」
「それで後継者は竹千代様にする
と」
「そうも簡単にいかんようじゃ。
お江与の方様は自ら育てておいで
の弟君の国松様を溺愛しておられ
る。秀忠様も利発なのは国松様と
見ておられるようじゃ。それに竹
千代様には健康に不安がある」
「そうなると福の献身は水の泡に
なりますね」
「後は大御所様がどう判断される
かじゃ」
 道春は惺窩の分析でこれからや
るべきことを見つけた。
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