【長編】戦(イクサ)林羅山篇
三位一体
 家康は道春が丁好寛に会ったこ
とを知ると道春を呼んで、どんな
話しをしたか問いただした。道春
は朱子学について二、三質問し、
あまり目新しい答えは得られな
かったと報告した。
 家康は道春が丁好寛と会うと慶
長の朝鮮出兵で総大将となった小
早川秀秋と分かるのではないかと
心配していたのだがそれは取り越
し苦労だったことにほっとした。
そして話題を変えて聞いた。
「ところで道春、どうじゃった秀
忠の器量は」
「はっ、上様は才知に溢れ、大御
所様に優るとも劣らない器量とお
見受けいたしました」
「それはちと言い過ぎではない
か」
「いえ、上様の器量は良いのです
が、その器量を発揮する機会がな
いため眠れる龍となっておられる
ように思います」
「眠れる龍か。して、その龍が目
を覚ますとどうなる」
「お恐れながら、今のままでは上
様と大御所様との間に不和が生じ
るのではないかと思います。もし
そうならなくても江戸と駿府で家
臣同士の争いになるやもしれませ
ん」
「わしの考えと同じじゃ。それで
道春ならどうする」
「今後のことを考えますと、一方
が動けば他方は静まるのがよろし
いかと思います。これが難しいの
であれば、もう一人加えて三位一
体になるのも一考に価するかと思
います」
「三位一体とな。それは世継ぎの
ことか」
「さすがわ大御所様。ご明察のと
おりにございます」
 この時、家康は竹千代と国松の
どちらを世継ぎにするかまだ迷っ
ていた。
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