【長編】戦(イクサ)林羅山篇
竹千代が世継ぎ
「そのような噂があることは存じ
ておる。しかし国松が世継ぎにな
るなどまだ決めたわけではない。
…そうじゃ、竹千代はわしが調合
した薬で回復したのじゃ。しかし
福の懸命の看護もあってのこと
じゃ。それを無にするようなこと
はけっしてせんぞ。それに国松は
お江与が育てている。母に甘やか
された国松では将来が心配じゃ。
よし決めた。世継ぎは竹千代
じゃ。福、竹千代に世継ぎとして
の教育をするよう頼む」
「ははっ。もったいなきお言葉。
福の命に代えても立派なお世継ぎ
となるようきびしく育ててまいり
たいと思います」
 このことがあって家康は突然、
江戸城に現れ、竹千代が世継ぎと
宣言した。
 誰にも有無を言わさない決定に
混乱する隙を与えず、秀忠もそれ
に従うだけだった。
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