【長編】戦(イクサ)林羅山篇
淀の心
「その遁甲を淀殿に伝授したとい
うのか」
「はい。秀吉公は戦になると
度々、淀殿を呼んでおりました。
それはたんに好きなおなごだから
ではありません。実戦を見せて兵
法を教えるためにございます」
「しかし何ゆえ、わしに刃向かっ
て遁れようとするのか」
「それは刃向かっているのではな
く、大御所様の誠実なことが分
かったからではないでしょうか。
このまま豊臣家が残れば少しでも
世が乱れると幕府への不満に乗じ
て、かつての豊臣の世になること
を望む者が現れるかもしれませ
ん。そうなれば源平の時ような乱
世になり、大御所様の心遣いを無
にすることになりかねません。そ
こで豊臣家と豊臣恩顧の諸大名を
この世から消し去ろうとしている
ように思うのですが」
「そのようなことを…。淀殿はそ
のようなことを考えるお方なの
か」
「それは、もうじき分かるのでは
ないでしょうか」
うのか」
「はい。秀吉公は戦になると
度々、淀殿を呼んでおりました。
それはたんに好きなおなごだから
ではありません。実戦を見せて兵
法を教えるためにございます」
「しかし何ゆえ、わしに刃向かっ
て遁れようとするのか」
「それは刃向かっているのではな
く、大御所様の誠実なことが分
かったからではないでしょうか。
このまま豊臣家が残れば少しでも
世が乱れると幕府への不満に乗じ
て、かつての豊臣の世になること
を望む者が現れるかもしれませ
ん。そうなれば源平の時ような乱
世になり、大御所様の心遣いを無
にすることになりかねません。そ
こで豊臣家と豊臣恩顧の諸大名を
この世から消し去ろうとしている
ように思うのですが」
「そのようなことを…。淀殿はそ
のようなことを考えるお方なの
か」
「それは、もうじき分かるのでは
ないでしょうか」