【長編】戦(イクサ)林羅山篇
淀の心
「その遁甲を淀殿に伝授したとい
うのか」
「はい。秀吉公は戦になると
度々、淀殿を呼んでおりました。
それはたんに好きなおなごだから
ではありません。実戦を見せて兵
法を教えるためにございます」
「しかし何ゆえ、わしに刃向かっ
て遁れようとするのか」
「それは刃向かっているのではな
く、大御所様の誠実なことが分
かったからではないでしょうか。
このまま豊臣家が残れば少しでも
世が乱れると幕府への不満に乗じ
て、かつての豊臣の世になること
を望む者が現れるかもしれませ
ん。そうなれば源平の時ような乱
世になり、大御所様の心遣いを無
にすることになりかねません。そ
こで豊臣家と豊臣恩顧の諸大名を
この世から消し去ろうとしている
ように思うのですが」
「そのようなことを…。淀殿はそ
のようなことを考えるお方なの
か」
「それは、もうじき分かるのでは
ないでしょうか」
< 60 / 259 >

この作品をシェア

pagetop