【長編】戦(イクサ)林羅山篇
正成の思い通り
 道春はこれまで京と駿府を行き
来していたが駿府での仕事が多く
なったため、妻の亀と供に駿府に
移住することにした。
 江戸では弟の林信澄が正式に秀
忠の側に仕えることになり、名を
永嘉と改め、道春と同じように剃
髪して東舟という号を賜った。こ
れにより江戸での情報が手に入り
やすくなり、竹千代のお守役とし
て影響力を増していた福とのやり
取りもしやすくなった。
(全ては正成の思い通りになった
のう。正成は今頃何をしているだ
ろうか)
 道春はこうなることを見通して
いたかのようなかつての家臣、稲
葉正成の知略にあらためて感心し
た。その正成は美濃にあって着々
と出世の道を歩んでいた。
 武士が出世するには戦で手柄を
たてるのが一番手っ取り早い。
 世間では天が正成に味方するよ
うに徳川家と豊臣家の間で戦にな
るという噂がちらほら聞こえてく
るようになっていた。
 戦になった時、主君を誰にして
盛りたて補佐するかも重要で、正
成は家康の次男で越後の松平秀康
の子、忠昌を主君と決め、度々会
う機会をもうけ、信頼を得るよう
につとめた。
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