【長編】戦(イクサ)林羅山篇
一心同体
 忠昌は正成の武勇伝と世の中の
情勢を聞くのを楽しみにするよう
になり、今後何かがあればすぐに
参じるようにと命じた。
 正成は小早川秀秋の筆頭家老と
して補佐していた頃を懐かしく
思った。
(かつては秀秋様の家臣となった
ことを恨んだこともあったが、思
えばあの頃が一番、やりたいこと
を存分にやらせていただいた。今
頃、秀秋様はどうなさっているの
であろうか)
 一心同体のようにすごした日々
は、正成と今は道春となった秀秋
にくしくも同じことを考えさせる
ようになっていた。
 道春の側に正成のような逸材が
家臣につくような身分ではなく
なったが、それにかわって崇伝が
何かと近づいてきた。もっとも同
じような仕事をしていたのでよく
会うのは当然なのだが、それにし
ても人懐っこい犬のようだった。
 崇伝の出世にとって最大の障害
は南公坊天海だったが、当面の障
害である道春に近づき、仕事を引
き継ぐかたちで道春にとって代わ
り、天海に挑もうとしていた。そ
してその機会が訪れようとしてい
た。
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