【長編】戦(イクサ)林羅山篇
秀忠の器量
 床机に座った秀忠の前に通され
た道春は立て膝で座り頭を下げ
た。
「道春、面を上げよ。久しぶり
じゃな」
「はっ。上様にはご健勝のご様子
でなによりでございます。早速で
すが大御所様のお言葉をお伝え申
し上げます。上様には城の近くに
ご出馬いただき、真田にそのご勇
姿をお見せするようにとのお言葉
にございます」
「おお、そうか。やっとわしの出
番がきたか。父上はわしの気持ち
をよう察してくれた。よし、すぐ
に出馬しよう」
「では、私はこれで失礼いたしま
す」
「まあ待て。この挑発で真田はど
うでる」
「お恐れながら、真田は上様に罵
声を浴びせましょう」
「そうじゃろうな。その罵声にわ
しは耐えられるかのう」
「上様が耐えられないほどの罵声
が真田からでるようなら真田の負
けにございます」
「なるほど、そういうことも言え
るな。ならばわしはおおいに罵声
を浴びてこよう」
「はっ、上様のその勇敢なお姿が
必ずやこの戦の剣が峰になり、お
味方の奮闘をうながしましょう。
まこと常人には真似のできないこ
とにございます」
「道春はのせ上手じゃな」
 秀忠は高笑いしながら出て行っ
た。その後ろ姿を見送る道春は秀
忠の計り知れない器の大きさに驚
嘆し頭を下げた。
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