【長編】戦(イクサ)林羅山篇
稲葉正成の陣
 道春は秀忠の陣屋をあとにする
と、そこから東、河内枚方の稲葉
正成の陣に向かった。
 秀忠の陣屋とは比べものになら
ない帷幕が張られただけの質素な
陣屋で正成は道春を迎え入れた。
 床机に座った正成の前に道春が
立て膝で座り頭を下げて言った。
「大御所様からのお言葉を伝えに
参りました」
 その言葉を待っていたかのよう
に正成はすぐに立ち上がり、
「それでしたらどうぞこちらに」
 道春は正成に促されて位置を入
れ替わり、立った道春の前に正成
が立て膝で座り頭を下げた。
「それではお伝えいたします。こ
たびの稲葉殿の大いなる働きに、
この戦の勝利を確信した。おって
褒美を与えるゆえ、これからも存
分に働いてもらいたい。以上で
す」
 そう言うとすぐに元の位置に戻
ろうとする道春に、
「まま、もうしばらくそのまま、
そのまま、腰掛けてください」
 道春は少しためらったが、しか
たなく床机に座った。
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