大剣のエーテル


心臓が鈍く音を立てた。

私は、この視線をよく知っている。

まるで、この世のものではないものを見るような、ひどく冷たい瞳。

今まで、私が浴びてきた拒絶の言葉の羅列と同じだ。

やっぱり、私は町を出たところで何も変わらない。

魔力を持たない者の存在はこの世界のどこにいっても異質であり、認められない“はぐれ者”なんだ。

今さら犯罪者ではないことを必死に訴えたって、意味はない。

魔力を持たないことに変わりはないのだから。

助けるために伸ばしたはずの手が、行き場をなくして彷徨う。

ゆらゆらと空気を掴んだ手は、降ろす場所も分からない。


(何も、言い返せない。)


じんわりとドロドロとした悲しみと無力感が胸に込み上げた、

その時だった。


白衣の青年が、足を踏み出した。

倒れた椅子をガタンと起こし、床に乱雑に散らばったカルテを拾い上げる。

患者達が彼を見つめると、トントン、と書類をまとめた彼は静かに口を開いた。


「傷なら、俺が診る。さ、早く来て。」


診察室にルタさんの声が響く。

それを聞いた患者達は顔を見合わせ、ゆっくりと立ち上がり始めた。

私は、道を開けるようにおずおずと壁際へ避ける。

つい俯いて、差し出した手をすっ、と下ろした

その時だった。


「ちょっと、何してんの。ノア。」


(え…?)


名前を呼ばれ、驚いて顔を上げる。


(何してんの、と言われても…)


…?と困惑の表情を浮かべていると、ルタさんは、こちらを見ずにさらり、と続けた。


「俺の言葉、聞いてなかったの?来なよノア。あんたの背中、診てあげる。」

< 104 / 369 >

この作品をシェア

pagetop