大剣のエーテル
心臓が鈍く音を立てた。
私は、この視線をよく知っている。
まるで、この世のものではないものを見るような、ひどく冷たい瞳。
今まで、私が浴びてきた拒絶の言葉の羅列と同じだ。
やっぱり、私は町を出たところで何も変わらない。
魔力を持たない者の存在はこの世界のどこにいっても異質であり、認められない“はぐれ者”なんだ。
今さら犯罪者ではないことを必死に訴えたって、意味はない。
魔力を持たないことに変わりはないのだから。
助けるために伸ばしたはずの手が、行き場をなくして彷徨う。
ゆらゆらと空気を掴んだ手は、降ろす場所も分からない。
(何も、言い返せない。)
じんわりとドロドロとした悲しみと無力感が胸に込み上げた、
その時だった。
白衣の青年が、足を踏み出した。
倒れた椅子をガタンと起こし、床に乱雑に散らばったカルテを拾い上げる。
患者達が彼を見つめると、トントン、と書類をまとめた彼は静かに口を開いた。
「傷なら、俺が診る。さ、早く来て。」
診察室にルタさんの声が響く。
それを聞いた患者達は顔を見合わせ、ゆっくりと立ち上がり始めた。
私は、道を開けるようにおずおずと壁際へ避ける。
つい俯いて、差し出した手をすっ、と下ろした
その時だった。
「ちょっと、何してんの。ノア。」
(え…?)
名前を呼ばれ、驚いて顔を上げる。
(何してんの、と言われても…)
…?と困惑の表情を浮かべていると、ルタさんは、こちらを見ずにさらり、と続けた。
「俺の言葉、聞いてなかったの?来なよノア。あんたの背中、診てあげる。」