大剣のエーテル
耳を疑った。
つい言葉を失い、彼のセリフを反芻する。
(私…?)
困惑のまま、まばたきをしていると、患者達が動揺したように口を開いた。
「あの…お医者様、わしらの診察は…?」
躊躇しつつそう尋ねた彼らを、ルタさんは一瞥する。
そして、予想外の言葉を発した。
「俺はノアしか診ないよ。だってあんたら“魔力を持ってる”でしょ。」
「「え!」」
患者達が目を見開き、声を上げる。
魔力を持っていない、と私を罵った彼らに向けられたブーメランのような言葉。あえて彼はそのような言い方をしたのだ。
そして、ルタさんは白衣の襟を正し、当然とでも言うように堂々と言い切る。
「今日は人間の治療しかしないから、悪いけど、あんたらは他をあたってくれる?ノアの手を払うくらいの元気はあるんでしょ。」
はっとした。
ようやくルタさんの真意に気がついた私は、白衣の彼を改めて見つめる。
ルタさんはいつもの仏頂面で、一つも表情を変えない。
患者達は何か言いたげに複雑な顔をしていたが、やがてぞろぞろと診察室を後にする。
最後の患者が部屋を出ると、扉に寄りかかっていたイヴァンさんが、ぱたんと扉を閉めた。
「あの、良かったんですか…?患者さん達を帰しちゃっても…。」
おずおずとそう尋ねると、ルタさんはわずかにまつげを伏せて答えた。
「医者は患者を選んじゃいけないけど…診察室が半壊状態じゃあ、どのみち治療は出来ないし。今日は特別。」
さらりと言われた言葉に温かさを感じる。
いつもの感情のこもっていない冷たげな言い方にも、彼の優しさが見え隠れしていた。