大剣のエーテル

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「…よっ、と。」


ドサ、とロビーのソファに腰を下ろしたランバートの隣に座ると、彼は静かに口を開いた。


「…さて。ノアちゃんは、ロルフから俺の過去のことを聞いたんだよね?」


そう切り出したランバートに、私は頷く。


「…うん。2年前に起こった事件のこと…少しだけ聞いたよ。」


その答えに、ランバートはわずかにまつ毛を伏せた。

窓から差し込む月明かりが彼のミルクティー色の髪を照らす。


「…ということは…俺とカイの事も?」


こくん、と無言で頷くと、ランバートは「そっか…」と呟いて目を細めた。

私たちの他に誰も居ないロビーは、しぃん、と静まり返っている。


「…カイさんを守るために、彼の魔法陣を砕いたの…?」


そんな私の問いが、ロビーに響いた。

ランバートは、少しの沈黙の後に口を開く。


「…“あの時は、ああするしかなかった”…、っていうのは逃げかもしれないけど…。その時の俺には、その選択が精一杯だった。カイの命を救うには、あいつごと俺の魔法に巻き込むしかなかったんだ。」


ずきり…。


傷ついたような顔をするランバートを見つめているだけで胸が苦しい。

心の痛みが伝染したように、ちくちくと針で刺されたような感覚を覚える。


「…あの夜の光景は…、今でも目に焼き付いて離れない。」


そう、ぽつり、と呟いたランバートの翡翠の瞳は、今まで見たことがないほど弱々しく揺れていた。

そんな彼は、ひどく繊細なガラス細工のようで、まるで、そっ、と触れただけでも壊れてしまいそうだ。

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