大剣のエーテル
決まった答えのように返された言葉は、信憑性があると言えば嘘になる程、今の私には不安定に聞こえた。
彼は約束してくれた。“家に泊まった宿代は、一生かけて払うから”と。
外の世界のことを教えることと、私の話を聞いてくれること。
これが、宿代なんでしょう?
「…私を、もう、ひとりにしないで…」
悪魔の子として生きてきたあの頃にはもう戻れない。
周囲から軽蔑の視線を向けられ、感情を殺して過ごしていた私はもういない。
仲間に囲まれて大切にされる喜びに気づいてしまった。
差し出された手の温もりを知ってしまった。
いつのまにか、一筋の涙が頬をつたっていた。堪えきれなかった熱い雫がぽろぽろと溢れる。
沈黙がロビーを包む。
優しげに眉を下げた彼は、ぽつり、と呟いた。
「…ノアちゃんに泣かれるのは、困るなあ。」
そっと私の流す涙を拭ったランバートの指は、ほのかに熱を帯びていた。
どくん、どくん。
体中が脈を打つ。
「…ねぇ、ランバート。」
「…ん?」
「私は、この国の魔法使いの誰よりも弱いわ。…魔力も持たないし、剣だって使えない。」
(だけど……)
翡翠の彼と視線が交わる。
息も忘れるくらい、彼のことしか見えなかった。
「だけど、私は貴方におかえりを言うことは出来るわ。私がここにいることが少しでも貴方が帰る理由になるなら…私は、あなたを誰よりも大切にしたい。」