大剣のエーテル
彼の名を呼んだ瞬間、フォーゼルは、ばっ!と私の手を離した。
そして、少し慌てたように声を上げる。
「わっ!悪い。…痛かったか…?!」
「!いや、大丈夫だけど…」
「そ、そうか。」
この人は、どことなく私に似ている。
この、“人とのコミュニケーション”に慣れていない感じが、そっくりだ。
彼がどういう人なのか、ますます分からなくなった時、フォーゼルが突き当たりの部屋の前で足を止めた。
「…着いた。ここが俺の部屋。ここなら邪魔者は来ない。」
(…!)
どくん、と心臓が音を立てた。
敵の拠点の、幹部の部屋。
誰もが簡単に足を踏み入れられる場所ではない。
…キィ。
部屋の扉が開き、ごくり、と喉を鳴らした
その時だった。
『…おい、見ろ。部屋に入れてるぞ…!』
『いきなり連れ込むなんて、早すぎるな〜。若いな〜。』
「後つけて来てんじゃねーよ!あんたら!!」
**
「うるさくて悪い。…あいつらはいつもあんな感じなんだ。」
「ううん、別に気にならないけど…」
部屋の中のカーペットに座った私たちは、ぎこちない会話を交わして黙り込んだ。
(なんだか、知れば知るほどイメージと違うな。一派の最年少幹部って、もっと血も涙もない人だと思ってたけど…)
フードを被ったままちょこん、と目の前に座る彼は、ルタの診療所で見た彼とは別人のようだ。
私は、そんな彼におずおずと話しかける。
「あの…」
「!な、何だ…?」
びくり、とした彼に、私は続ける。
「そのフード、取らないの?」
「!」
指摘されたくないことを言われた様子のフォーゼルは、ぶんぶん、と頭を横に振る。
どうやら、彼は素顔を晒したくないらしい。
敵である私に見せたくないということだろうか。
(…フォーゼルに警戒されているのかな。)
緊張しながら彼を見つめていると、フォーゼルはやがて「ふぅ…。」と呼吸をして口を開いた。
「…確認なんだけど…あんた、魔力を持ってないよな?」