大剣のエーテル

「…よかっ…た…」


「!」


耳元で囁かれた声は弱々しく、私の肩に埋まるようにしているランバートの顔は見えない。

私の故郷で大男を床に沈めた時に息一つ上がっていなかった彼の呼吸が乱れている。

触れる服越しに、どくどくと心臓が鳴っているのが伝わる。


(…私を追って、来てくれたの…?)


その時、ふっ、とランバートが私から離れた。

私が目の前にいることを未だに信じていないような不安げな瞳が私を映す。


「…ランバートは、カイさんを追ってたんじゃ…」


ぽつり、とそう呟くと、ランバートは私を見つめて答えた。


「ババ様からルタに連絡があったんだよ。ノアちゃんが教会のみんなを守るためにフォーゼルに連れていかれた、って…」


(…!)


ランバートの翡翠の瞳が揺れている。

こんな顔のランバート、初めて見る。


「ごめんね、ノアちゃん。俺は、君の側にいなくちゃいけなかったのに。」


今、ランバートの心を支配しているのは何なのだろう。

目が合っているようで、私を見ていないような瞳。


「…俺はもう二度と、仲間を失うわけにはいかないのに…」


(…!)



ぼそり、と聞こえたその言葉は、私の耳に確かに届いた。

自分の大切なものが壊れる過去が、ランバートの体に絡みついている。

そのことだけが、ひしひしと伝わってきた。


「ランバート。」


「…!」


ひた、と彼の頰に指を這わす。

ぴくり、と震えた彼が、やっと私を見た気がした。


「私はここにいるよ。」


「!」


「フォーゼルは私を傷つけてない。何も酷いことなんかされてないわ。」


ランバートの頬に触れる私の指に、そっと彼の手が重なった。

そこから伝わるのは、お互いの体温。


「私はカイさんとは違う。」


「!」


「ずっと、あなたの側にいる。」


(ランバートがこうして守ってくれるから。)


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