大剣のエーテル

俺を見上げる彼女の瞳は、複雑そうに俺を見つめている。

いや、睨んでいると言ってもいいだろう。


「…私が、勝ったのに…」


(うん、ごめんね。そうだよね。)


散々からかって楽しんでいたのに、まんまと彼女の策にはまったのは俺だ。

だけど、これだけは譲れない。


「こんな可愛いことをしてくるノアちゃんを、危険なとこに行かせるわけにはいかなくなったの。」


「…最初から私を行かせるつもりなんかなかったくせに…」


(…やっぱりバレてた。)


少し恥ずかしがりながら視線を逸らす彼女は、やけに色っぽく見える。


(あー、だめだ。…これ以上ノアちゃんと2人でいたら、今度はどういう“爆弾”落とされるか分かんない。)


俺の理性を一瞬で吹っ飛ばす“爆弾”を、彼女は容赦なく口にするのだ。

本当、油断ならない。


「…ランバート。」


「ん…?」


俺の名を呼ぶ彼女は、どこか不安げだった。

心配そうに俺を見つめるその瞳は、考えていることがバレバレだ。


「…無茶だけは、しないでね…。」


ぽつり、と告げられた言葉は、他に言いたいことが山ほどある中で絞り出された彼女の“気遣い”だった。

俺は、彼女を見つめ返して頷く。

そして、ベッドの上に置いた大剣を背負い彼女に答えた。


「絶対、帰ってくるから。」


「!」


彼女は小さく目を見開いた後、にこりと笑う。


「幻夢石なんかに負けちゃだめだよ…!」


必死に俺の背中を押す彼女は、笑顔を繕っているのが簡単に見抜けた。


…ぽん。


俺は、彼女の頭を優しく撫でる。


「俺が負けるのは、ノアちゃんにだけだよ。」


「!」


彼女は、少し照れながらも何度も何度も頷いた。

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