大剣のエーテル

…パタン。


彼女の温もりを残したまま、俺は1人、部屋を出た。

廊下の冷たい空気が頬を撫でる。


(…ふぅ。)


トン、と軽く扉にもたれる。

先ほどの出来事が頭から離れず、窓に映る自分の首筋には、くっきりと彼女の残した“跡”が居座っていた。


「おい、ランバート。」


「っ?!!」


突然声をかけられ、俺はびくんっ!と体を跳ねさせた。

ばっ!と声のする方を見ると、そこにはいつもの殺し屋のような面をしたイヴァンの姿。


「そんなに驚くことか?体は大丈夫なのか?」


「う、うん…!もう傷も塞がったし大丈夫…!」


さりげなく首に手が伸びる。

俺の態度を不審がっている様子のイヴァンは、眉を寄せて口を開いた。


「ん、どうした?首を痛めたのか?」


「えっ?!えーと…寝違えたみたいで。」


「重傷でぶっ倒れたくせに寝相が悪かったのか?呆れたやつだな。」


何と思われてもいい。

今は首に居座る赤い跡について言及されない方が無難だ。

すると、イヴァンがさらりと俺に尋ねる。


「そういや、ノアがそっちに行ったろ?会わなかったか?」


「ノ、ノアちゃん?あぁ、話したよ。別に普通の会話をかわしただけだけど。」


俺の態度に「ほぉー…」と目を細めたイヴァン。


(…き、気付いているわけじゃないよな。)


平静を装って無言でいると、イヴァンがふぅ、と呼吸をして言葉を続けた。


「…行くんだろ?」


「!」

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