大剣のエーテル
*翡翠の魔法使い
「そういえばこの本、新刊が出たんだよ」
「えっ!そうなの?」
大木の幹に寄りかかってお喋りを始めたランバートは、先ほどから腕に抱えていた本を私に見せながら言った。
この本は、城を出た騎士が囚われの姫を助け出し、仲間たちと世界の平和のために冒険をするありふれたファンタジー小説。
だけど、私は今まで読んできた中で1番この本が好きだ。
たしか、私が持っている本では、姫を敵の元から連れ出すシーンで終わっていた。
「この町に来る前に滞在していた町で見つけたんだ。イヴァンが持ってる鞄に入っているから、今夜貸してあげようか?」
「いいの…?嬉しい、ありがとう…!」
「他にも面白い本がたくさんあるから、好きなの読んでいいよ。」
イヴァンは、“荷物の大半は連れの私物だ”と言っていたが、まさか、すべて“本”なのだろうか。
(ランバートの私物なら、あり得る…。)
話しているうちに、少しずつ彼のことが分かってきた。
無類の本好きな点は私と似ている。
穏やかで年上の彼は各地を流れた後にこの町に来たらしい。
「どうして旅をしているの?」
「んー…、探しものがあってね。」
私が、「それって、本?」と尋ねると、ランバートは、ぷはっ!と吹き出して楽しそうに目を細めた。
「本当にそうだったら、きっとイヴァンは俺について来てはくれないだろうね。」
言われてみれば、そうかもしれない。
ランバートは、それ以上深く語ろうとはせずに話題を変えた。
「でも、旅先で興味深い本を見つけることはあるよ。この町の本屋はまだ行ってないけど…。ノアちゃん、何かオススメの本とかある?」
(…!)