大剣のエーテル

「…っ…!」


ランバートが、わずかに顔を歪めた。

小さく漏れた声に、俺ははっ!とする。


(…まさか、今ので傷が開いた…?)


ぞくり、と体が震えた。

ランバートの体には、幻夢石の魔力が微かにまとわりついている。


「これ以上は危険だ!カイを連れて撤退しよう!」


俺がそう声を上げると、ランバートはよろり、と立ち上がった。


「…だめだ。幻夢石の魔法陣を砕いてからじゃないと…!」


(!!)


ランバートは、腕を突き出し魔法陣を広げようとしている。


「やめろ、ばか!傷が開いてるんだろ?!悪の気に当てられて死ぬぞ!」


俺の声に、イヴァンの顔が強張った。

しかし、ランバートは俺たちに向かって指示を飛ばす。


「きっと今ごろ、ハロルドがエンジンを直しているはず。イヴァンとルタは、カイを連れて教会へ戻るんだ。ここに残れば、俺の魔法に巻き込まれる。魔法陣を砕かれるよ。」


「「…!」」


その言葉に、俺とイヴァンは耳を疑った。

そんな指示、聞けるわけない。

今にでも倒れそうな患者を見捨てて、帰れるってか?

ランバートに反論しようとした次の瞬間。

今まで聞いたこともないような低い声が響いた。


「早く行け!!」


「「!」」


その口調は、団長命令。

俺たちは鋭い翡翠の視線に息を呑む。

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