大剣のエーテル
第1章災厄の日
*動き始めた運命
「ほらよ、ノア。今日の三食分だ。残さないで食べろよ?もったいないからな。」
町長のダーナさんが差し出したのは、一切れのパンだった。
(…残すも何も、足りないわ。)
塩気すらないパサパサに乾いたパンを受け取った私は、深々とお辞儀をして口を開く。
「ありがとうございます。」
「礼には及ばんよ。両親のいない孤児の世話をするのは町長である私の責任だと、いつも言っているだろう?」
ダーナさんの仮面のような笑みを見慣れているせいか、人の表情がどれほど豊かなのかを忘れてしまった。
いや、忘れたんじゃない。
私は、この顔か、これよりも温かみのない負の表情しか知らないんだ。
「ノア。もう十分わかっていることだと思うが忠告しておくよ。君は決して…」
「“決して町の外に出てはいけない”、…ですよね?」
「あぁ、そうだ。きちんと守ってくれよ?今まで通りな。」
そう言い、にこりと笑ってこちらに背を向けたダーナさんを、私は静かに呼び止めた。
「あの、」
こちらを振り向かずに立ち止まった彼の背中に、私は尋ねる。
「今日が何の日か…、覚えていますか?」