大剣のエーテル
私の問いかけは、コンクリートの壁に響いて空気に混じる。
しぃん、とした余韻の中、「あぁ…」と小さく唇を震わせたダーナさんは、低く続けた。
「忘れるわけないじゃないか。今日はこの国に人間が生まれた“災厄の日”だ。私は、君の誕生を目の前で見た。歴史的瞬間に立ち会えたことを嬉しく思うよ。」
全てを言い切ったダーナさんは、小さく振り返った。
その顔には、いつもの仮面の笑みがあった。
「さ、もう話は終わっただろう。早く自分の家に帰りなさい。」
「…はい。」
パタン、とダーナさんの家の扉が閉まった。
(そういう言い方しか出来ないのかしら。)
心に小さく芽生えた悪態をため息とともに吐き出しながら、私はパンを一かじりして歩き出す。
「…ジャムくらいくれたっていいのにな。」
他に言いたいことは山程あったが、結局口にしたのはそんな小さな愚痴だった。
嫌味としか思えないセリフに泣いたり怒ったりした自分は、いつしか消えた。
それは、心のどこかで…いや、もう私の思考のほとんどが、今の現状を“仕方がない”と受け入れているからだ。
(だって私は、魔力を持たずに生まれた“悪魔の子”なんだから。)
4月の冷たい風を頬に受けながら、丘の上に建つダーナさんの家を背に、町を見下ろした。
国の中心から離れた西部の小さな町。この丘から見渡せる町が、私の世界のすべてだ。
ここから出たことも、出ようと思ったこともない。
(きっと、これからもそうだ。何かが変わることは、一生ない。)
私はわずかにまつ毛を伏せ、一歩、町へと足を踏み出した。