帰宅部の反乱
タイトル未編集

 暑い。とにかく暑い。うだるような暑さだ。ゆうに30度を超えている。立っているだけで、フラフラしてくる。
 ただ、グラウンドでは、もっと熱い戦いが繰り広げられていた。
 関東中学校ソフトボール大会。女子は、この大会で上位4チームに入れば、全国大会に出場できる。つまり、準決勝まで進めば、全国大会の切符が手に入るわけだ。その準決勝進出をかけた試合が、大詰めを迎えていた。
 最終回である7回裏、2アウトランナーなし。ピッチャーズサークルには、絶対的なエースがいる。彼女なら、ゼロで抑えてくれるだろう。中学生最後の大会である。何が何でも、全国大会に出たい。
 歓喜の瞬間がもうすぐやってくる。この瞬間のために、厳しい練習にも耐えてきた。大好きなスイーツも我慢してきた。その努力が報われる時が刻一刻と近づいてきた。
 ところが。
 重圧に耐え切れなかったのか、ここでピッチャーが、2人続けてフォアボールを出してしまう。同点、そしてサヨナラのランナーが出塁した。あと1アウトなのに。私は、何度もグラブを外して、汗をぬぐった。お願い、抑えて。
 その願いもむなしく、快音が響く。打球はアーチを描き、私の方へ向かってくる。この打球をダイレクトで取れば、私たちの学校の勝利だ。逆に、取れなかった場合は、相手のサヨナラ勝利となる。
 足の速さには自信がある。だからこそ、守備範囲の広いセンターのポジションをまかされた。私は、打球の軌道から落下地点を目測し、そこへ向かって走った。走りに走った。
 でも間に合わない。残された方法は一つしかない。私は、思い切り地面を蹴った。体が地面と水平になる。落ちてくるボールのほうへ、グラブを出す。そのグラブの先をボールがかすめた。でも、その中に収めることはできなかった。
 私の体は、思い切り地面にたたきつけられた。その衝撃と、それまでの暑さで、意識が薄れていった。
 ボールが転がっていく。そして、全国大会が去っていく。

 その晩、私は体中の水分がなくなってしまうかと思うくらい、涙を流した。
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