帰宅部の反乱
 一通り柔軟体操が終わると、集合がかけられた。次はキャッチボールらしい。新入生たちは二年生に続いて、用意されたグラブを次々と手にとった。
 用意されたグラブは、使い古されたものばかりだった。これだったら自分のものを使えばいいのにと香織は思ったが、仕方なくその中からひとつを選んでとった。
 キャッチボールの相手は、引き続き恵美だった。香織と恵美は、一定の距離をとって向かい合い、キャッチボールを始めた。
 香織は二年生の方に目をやると、ある事に気づいた。ボールを投げるとき、手で投げているのだ。キャッチボールは、手ではなく体全体を使って投げないといけない。基本中の基本だ。二年生が、それができていないのだ。これで、新入生に指導ができるのだろうか。香織は不安を感じた。
 再び集合がかけられた。キャッチボールは終わりのようだ。次は何の練習だろう、と香織は思ったが、城ヶ崎キャプテンの次の言葉に耳を疑った。
 「はい、みなさん、お疲れさまでした。これで今日の練習は終わりです。また明日、同じ時間に集まってください。それでは、解散!」
 何それ? たったこれだけ? こんなの、練習したうちに入らない。何でこんなに短いの? 香織は納得がいかなかった。
 ほかの新入生たちを見てみると、香織と同じように不審がってる人もいるが、当たり前のように部室へ向かっている人もいる。一体どうなっているのだろうか。
 香織は、部室へ向かう恵美を捕まえて言った。
 「ねえ、森崎さん」
 「あ、エミーでいいよ。ずっとそう呼ばれてるから」
 「じゃあ、エミー。ちょっとおかしくない?」
 「おかしいって、何が?」
 「練習が短すぎるわよ。ランニングも少しだけだし、キャッチボールだけで終わったし、これって変じゃない?」
 「あれ? 知らなかったの?」
 「知らなかったって、何が?」
 恵美は、香織の肩に手を置いて言った。
 「うちの高校のソフトボール部って、形だけで、実質帰宅部だよ」
 香織は、何かかたいもので頭を殴られたような気がした。
< 7 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop