【短編】朝焼けホイップ
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 扉の向こうで、ちぃちゃんが泣いている。

俺は木製のそれに片手をあてて、その声を聞くことしか出来なかった。


酷いことを言ったと思っている。

これまでに沢山傷つけたことも分かっている。

俺が女の人の家に泊まる度、一瞬だけ歪むその表情が俺はたまらなく好きだ。

最低だと知っている。

それでも、消したかった。

馬鹿な俺は、傷つけると分かっていても。

あの朝焼けを消したかった。


ちぃちゃんをその他大勢の一人にしてしまえば、許されるような気がして。


沢山の女のひとと寝た。


それでも浮かぶのは彼女ばかりで、やっぱり俺は最低だった。


「…ちぃちゃん」


返事は期待していない。


「ちぃちゃん、聞いて」


「…なに」


「ずっとちぃちゃんは姉じゃない、俺には」


ず、と鼻をすする音が聞こえてきた。

その涙を拭ってやれたらどんなに。


どんなに、幸せだろう。


「…あの日、言い出したのは透流だわ」


うん、そうだよ。

俺は馬鹿だから。


「でも、ずっとちぃちゃんのことが好きだよ」 

 
「…だから、どうにかなることじゃないわ」


「うん。でも、俺たちはさ。もうほとんど大人だよ」
    

「どういう意味?」


「覚悟があるなら、きっと何でも出来るようになる」


「だから、何なの?」


「俺は、ちぃちゃんを諦めるつもりはないよ」


また、泣いているんだろうか。

どんな顔をしているのだろう。


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