【短編】朝焼けホイップ
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街中で彼と再会した。


「久しぶり、知帆ちゃん」


彼は、また少し切なそうな顔で笑った。


「久しぶり」


「幸せそうで良かった」 


「あなたも。…ねえ、私あのときの言葉の意味がようやく分かったの」


彼が綺麗な女のひとを連れているのを以前に見かけたことがある。

良かった、と思う。

私は彼が好きだったのではなく、透流と似た彼の仕草が好きだったのだ。

ひどい女だった。

彼を通して、別の人を見るなんて。


「良いんだ」


「ちゃんとご飯、食べると良いよ。サイダーとコーヒーじゃなしに」  


おどけて言うと、彼は優しくそうだね、と笑った。


「そうだ、ねえ紅茶はもう沢山買わない方が良いわよ。飲まないんだから」


冗談のつもりだったが、彼は思いの外へんな顔をした。

何だか見たことのないような顔だった。

笑顔なのに笑顔とは言いがたい、何というか。


「やっぱりか。おまえさ──」


「ちぃちゃんっ」


初めて、お前と言われて驚いていると透流が走ってきた。

目隠しをするように私を片腕で引き寄せる。


「遅れてごめんねえ。あれ、どちら様?」


「えっとこの人は…」


「ふーんまあいいや。行こう」


ろくすっぽ聞きもせずに透流は歩き出す。

このままじゃ目が見えないのに。


透流はどんな顔で私の元彼を見ているのだろう。


私は何だか複雑な気分で透流について歩いた。



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