短編集
彼女の存在を知って、彼女の秘めた想いを知ったからといって何も心配するようなことはなかった。
彼はいつもどおり優しかったし、彼女と会った次の日は彼女がどんなに可愛いかを一から百まで説明して聞かされた。
いい気分ではなかったけど、彼が楽しそうに話すからやめさせることが出来なかった。
それに彼が話していても心配する要素がなかった。
彼は彼女を女の子として見ているんじゃなく、自分の妹のように可愛がっているというのが話し方で感じとれた。
だから完全に油断していた。
彼が彼女のことを妹のようだと思っていると勝手に思い込んでいた。
彼と彼女には何もないと、何も起こらないと、当たり前のように信じていた。
それが一番最初の間違いだった。
『来月からちずの家庭教師をすることになったんだ』
彼が言った言葉はその時の私にはなんでもないことだった。
彼女の話を聞くのは日常化していたし、成績のいい彼が彼女の家庭教師をすることに違和感なんてなかった。
だから安易に「頑張ってね」と言ってしまったんだと思う。
安定した私達の関係が、彼女が彼のことを好きだというのも、彼が彼女を他の女の子よりも特別視していることも忘れさせていた。
これがカウントダウンの始まりになるなんて思いもしなかった。