短編集
「おはよう。あたし出れないから、さっさと起きて朝食食べて」
寝起きの思考で夜の事をじわじわと思い出す。
そういえば夜中に泣きながらおしかけたんだった、と自分の行動に自己嫌悪。
あたしの仕事はアパレルで今日は遅番だから朝はゆっくりでも大丈夫だけど会社勤めの紗夜ちゃんの朝は早い。
忙しい朝なのにあたしの分の朝食まで準備してくれる。
あたしのせいで寝不足でイライラしてるはずなのに、あたしを突き放すこともせず面倒まで見てくれる。
本当にいい友達を持ったなって、あたしには勿体ないくらいの友達だなってつくづく思う。
あたしがのん気に朝食食べてる間にも紗夜ちゃんは動きっぱなしで止まることない。
「あ、そうだ」
洗濯物を干している手は休めず紗夜ちゃんはあたしに声をかけた。
「どうしたの?」
卵焼きにを口に入れながら返事をする。
「今日にでも連絡して片付けなさいよ」
そっけない言い方にコウちゃんのことなんだとわかった。
紗夜ちゃんは洗濯を干し終えると今度は流しで洗い物をする。
時々、腕時計を確認する。
「あの、紗夜ちゃ、」
「食べた?片したいから食べたら持ってきて」
言葉を遮られ、謝る隙を与えてくれない。
忙しい朝だから押しかけといてなんだけど邪魔しないように喋らないようにしているけど、やっぱり迷惑を掛けたことについてはちゃんと謝りたい。
「紗夜ちゃん、あのね、」
「謝らなくていいわよ。いつもの事だし」
「う、うん」
“いつもの事”と言われてしまったら謝るにも謝れない。
どんな風に謝れば良いのかわからない。
もう数え切れないくらい何度もこうして押しかけているんだからそう言われても仕方のないことだとは思っているんだけど、いつも冷静になれない自分が嫌になる。
「ごめんね」と言えば「別に」と返ってくる。
怒ってないのはわかってもやっぱり冷たい言い方に捉えてしまうあたしは相当厚かましいんだろうか。
落ち込んだ気持ちを全身で表す自分がダメだと気付いていてもどうしても気丈になれないあたしは手ぶらでやってきた自分にも呆れて、無意識に掴んできたらしいハンドバッグを持って部屋を出る紗夜ちゃんの後に続く。
「弥久」
「はいっ」
急に名前を呼ばれて勢いよく顔を上げると相変わらず無表情の紗夜ちゃんがドアを開ける手前であたしを見てた。
「あの?」
じっと見つめられたまま呼ばれた意図を尋ねるように声を掛けた。
すると紗夜ちゃんは溜息を吐いて顔を逸らした。
ドアの方へ向いてしまったからあたしからはまた顔が見れない。
何を言われるんだろうと不安になる。
「もう来るな」とか「友達やめよう」とか言われたら絶対に泣く。
それこそ仕事に行かなきゃいけない紗夜ちゃんを全力で阻止して懇願するかもしれない。
そんなの嫌だ、そう思って俯きながら外に出る。