短編集
落ちる予感
「ひっく、うっ、ひっく、うぅ~っ」
最悪、まただ。
またフラれた。
「~~~っ、最悪!」
何度も何度も人を好きになる。
だけど、何度も何度もフラれる。
私、本当に恋愛運ないのかもしれない。
「ナナさん、また泣いてるんですか?」
「うぅ~~っ」
「ナナさん」
「っ、ひっく、あ、あっち行ってよ!」
また私をバカにしにきたに違いない。
恋したって実らない私を笑いにきたに決まってる。
「どうせバカにしにきたんでしょ?!またフラれて泣いてるって、笑いに来たんでしょ?!」
絶対笑いにきたに決まってる。
いつだってそう、あたしがフラれて泣いてる時に限ってこうして背後にいる。
フラれる場所が毎回裏庭だってことにも原因はあるんだろうけど。
「別に笑いにきたつもりはありません。たまたま、」
「たまたま通ったらフラれた私が見えた?!だから笑いにきたっていうの?!」
「だから笑いには来てないですって。通りかかったのは本当です。僕ってタイミングがいいのか悪いのか」
「だったら放っておいてよ!」
毎回毎回、あたしがフラれる最悪のタイミングにコイツは現れる。
「見てた」って言ってくれればいいのに「たまたま通った」って言うからタチが悪い。
一番最初は本当に偶然だったと思う。
その時点で私の玉砕記録更新日で、かなり哀れな私だった。
裏庭で放課後だったから声も我慢せずに泣いてた。
『どうしたんですか?』
子供みたいにわんわん泣き喚く私に声を掛けてきたのがコイツだった。
見たことの無い顔で年下だってことはわかった。
男らしいとはかけ離れた可愛い顔。
その割には声が低くて甘い。
フラれた私の心に溶け込むのは早かった、けど。
『こんな所で泣かれては迷惑です。家に帰ってから自由に泣いてください』
見た目に騙された私が正直に話すと軽々と突き放された。
軽く人間不信になった瞬間だった。
それからというもの、私が失恋する度に現れては“たまたま通って”私を見つけて「また泣いてるんですか?」と声を掛けてくる。
声を掛けてくるくせに慰めようともしないから絶対面白がってるんだと思う。
それが恥ずかしいし悔しいしムカつく。
腹立たしいというか、なんというか、自分もコイツも嫌。
「家で泣けって言うんでしょ?わかってるわよ、でも少しくらい泣いたっていいじゃない。好きな人にフラれてるんだから私だって悲しいのよ。あんたにはわかんないだろうけど」
「・・・」
「・・・どうして何も言わないのよ」
いつもなら言い返してくるくせに、今日に限って何も言わないなんて調子狂う。
涙を拭いて、顔を上げると真剣な顔が私を見ていた。
「な、なに?」
「わからないって、僕が?」
「は?な、んの話…」
校舎の壁に寄りかかって泣いてた私の背後に立っていたくせに気付けば私の目の前に立っていた。
ゆっくりと近付き、2歩分程の距離を開け、視線の高さを合わせるように、それもまたゆっくりとしゃがんだ。
私はその一連の動作を見ていたけど、可愛い顔からは想像できないスマートな動きに“男”を感じさせられてドキリとした。
「そ、そうよっ!短いスパンでフラれ続ける私を笑いにきてるんでしょう」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、いつも笑ってるじゃない!」