短編集

・・・黙ったまま。
自覚がないなんて最低だ。

やっぱり私を笑いにきてたんじゃない。
私の言葉に反応だってしない。
もう嫌だ。

「…もう帰る」

座り込んでいた私は自分でも信じられないくらいの速さで立ち上がった。
鞄だって持って信じられないくらい早い速度で帰る―――そう想像してから立ち上がり、鞄を持とうとした、その手を掴まれた。

「…なによ」

私の手を掴んだまま動こうとしない。
その手のせいて私も立ち上がったまま動けない。
一体どうしたっていうんだろう。

「どうしたのよ?私帰りたいんだけど」
「僕が、」
「は?」
「僕が本当に偶然通りかかったと思ってるんですか?」

何を言ってるんだろう、何を言ってるんだろう?

そりゃ確かによくよく考えれば、“偶然”ではありえないくらいタイミングが良いし、初めて会った時から欠かさずこうして私の傍にいる。
わざとだって言われれば納得できちゃうけど。

「僕は笑ってないですよ」
「笑ってるわよ!今だって、私を見て笑ってる。さっきだって笑ってるっていうより、顔が緩んでた…っ」

失礼にも程があると思う。
笑おうとしてる時点で失礼だけど、顔緩めて堪えてる方がタチ悪い。

笑いたいなら声出して笑ってくれた方が私だってせいせいするし、気だって楽になる。
ただフラれっぱなしの見境ないバカじゃないし、男選びが悪くてもそれくらい判断できる。

「それは、」
「それは、なによ!?」

どうせロクな返事が返ってこないんだから!そうに決まってる。

掴まれた手を振りほどこうと思いっきり動かしてみたけど、まったく動かない。
コイツ、本気で私で遊んでるんじゃないの?!

「もう!私をからかって遊ぶのやめてよ!嫌がらせなら他で、」
「嫌がらせじゃない」

ぐっと掴まれた手に力が入って思わず私の言葉が詰まる。

敬語が外れたことにも驚いたけど、声のトーンに怯んでしまった。
こんな時に真剣な声を出されると黙るしかないじゃない。

「嫌がらせじゃないなら何だって言うのよ」
「それは、」
「それは、の続きは何?否定しないって事はそうなんでしょう?」
「違います」
「じゃあなんだって、」
「下心です」
「・・・はぁ?」

なに言ってるんだ、コイツは。
私だって一応義務教育を経て高校生活もあとわずかって所まできてる。

人並み以下だけどある程度の知識なら蓄えてるし理解だって出来る。
だけど、コイツのこの言葉だけは理解できない。
全く、理解できない。
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