短編集
恋するオトメ
片想い歴3年と11ヶ月。
もうすぐ4年になる。
高2で出会って、出会ったその日から猛アタックしてるにも関わらず、あたしの片想い期間は延びる一方。
このままだと一生振り向いてもらえないんじゃないかって不安はとうの昔にどこかで落としてきてしまった。
今のあたしには想いが通じない以外に怖いものなど何もない。
「皐月先輩、好きです。付き合って下さい!」
「邪魔すんなら帰れ」
・・・そして今日もスルー。
「あたし本気なのに」
「何千回と聞いた。用が無いなら帰れ。・・あ〜」
「なに?」
「用が無いなら何か飲んで帰れ。それくらいおごってやる」
「ほんと?!」
「感謝しろ、バカ」
白シャツに黒のパンツに黒のエプロン。
あたしが憧れてたカフェ店員さん。
後姿がカッコイイ!!!
カフェで働いてる皐月先輩。
大学の講義の合間にバイトをしてるんだけど、実はあたしと同じタイミングで受けて先輩だけが採用されたってオチ。
それを先輩に言ったら「外見で落ちたんだろ」と鼻で笑われた。
アジアンテイストでハイビスカスの花が飾られて可愛い店内に柔らかい先輩の雰囲気がベストマッチ。
ここを落ちたことなんて忘れて通える限り先輩に会いに通ってる。
もう一ヶ月も経たない間に超常連様に昇格したあたし。
「続くね~」
3時のティータイムを少し過ぎた時間帯でお客さんが少ないから話しかけてきてくれたのは店員さんのリョウさん。
このカフェで一番の人気者で一番のイケメンボーイ。
もちろん、皐月先輩には劣るけど。
「もう4年でしょ?俺なら諦めるわ、確実に」
「それだけ先輩が好きなんです!何度も言ってるじゃないですか」
「聞いた、聞いた。じゃあ続きもわかるよね?」
「あたしは先輩一筋です!」
つれないな~、とあたしの目の前の席に座って今度は真っ直ぐに見つめられる。
この人のこういう所がモテるんだろうな、と思いながらも、その甘い視線に酔わされる。
「俺を彼氏にしてみない?」
「なっ?!」
「毎回毎回飽きないな、お前も」
いつもと違う攻めの姿勢にびっくりして顔を真っ赤にしたら背後から先輩の声。
トレーに乗せられたアイスコーヒーとチーズケーキをあたしの前に置いて、そのトレイでリョウさんの頭を叩いた。
「痛いぞ、皐月」
「お前がバカな事してるから注意してやってんだろ」
「バカってなんだよ」
「こんな奴でも客は客だろ。勤務中に客を口説くな」
皐月先輩はもっともなセリフを眉間に皺を寄せてリョウさんに言う。
リョウさんは叩かれた頭をさすりながら「皐月は頭が固い!」と言った。
あたしはそれをただ見てるだけなんだけど、少し上がった心拍数とリョウさんを止めてくれたっていう期待が募ってドキドキする。
あたしのために止めてくれたっていう嬉しさ。
自意識過剰でもなんでもいいから自惚れていたい。
「客だって言ったって皐月の後輩だろ?ちゃっかりセットもおごってやってるじゃん。それにこんなに好かれちゃってさ?俺だってそんな熱い気持ちで想われたいわけ。わかる?」
「わからん」
即答かよ、とリョウさんが項垂れるのを無視して、さっさと他のテーブルに行ってしまう。