短編集

「普通ってことはまだ告ってないの?」
「別に付き合いたいとかそういうのじゃない」
「好きな男、独占したいとか思わないの?そいつ地味なの?」
「地味…最近有名かも」
「そうなの?俺も最近有名になったけど」
「全国模試3位だもんね」
「全国模試3位なの」
「だからなんなの?」
「お前、もっと『スゴーイ!』とか言えよ。褒めろよ、俺を」

なんなの?と横目で見るから「もう散々褒めてもらえたでしょう?」と言うと笑った。

笑顔が可愛いと思うのはあたしの欲目。
今までは可愛い顔して笑うな、と思う程度だったけど、今はキュンって心臓が縮まる。

なんなの、コレ?!って思った時には好きだった。
こうして普通に話してる間は心地いい。
でも無言になると緊張する。
それも彼が好きだと自覚して初めて感じた。

「全国模試3位ってだけで、それだけだし」
「可愛い女の子に勉強教えてるじゃん」
「なに、嫉妬?」

んなわけないじゃん、そう言い放ったけど自分の顔がどんな表情をしているのかわからない。

普通に笑えていたらいいけど、嫉妬丸出しの顔だったらどうしよう。
あたしだって想いを隠せるほど余裕があるわけじゃない。
自分の感情に戸惑ってるのを隠せるわけがない。

「多英ってさー、バカだよね」
「どういうことよ」

隣に並んでいたはずなのに横を見てもいなかったから少し後ろを向いて睨むと彼は笑ってる。
それもとっても面白そうに。

「多英って嘘つけないんだよ」
「毎日嘘付いてるよ」
「それもどうなんだよ。てか、俺には嘘つけないんだって」

それってどういう意味?と思いながら無視して歩いてると「あ、無視?」と笑いながら問いかけてくる。

こういう余裕のあるところが嫌いなところで悔しいけど好きなところでもある。
からかわれてるってわかってるのに完全に無視できない自分が悔しい。

「あたしの話はスルーか。もー、なにが言いたいの」
「嫉妬したでしょ」
「してないよ」
「いーや、あれはしたね。俺が最近可愛い女の子と2人で教室でいるからムカついてる」
「ムカついてないよ。てか、可愛いって思ってるんだ」
「でも今はムカついてる」
「あたしは何も嘘ついてないよ」

足を止め、振り返ると2歩ほど距離をあけて彼が立っている。

呆れて彼を見るけど、やっぱり向かい合うのは緊張する。
それでも冷静を装うのは彼のペースに乗って自分の気持ちを言いたくないから。

あたしが伝えたくなったら伝える。
でもそれは今じゃないと思うから黙ってるだけ。

彼はあたしを見て、少しの間なぜか見つめ合って、さらになぜか近づいてくるから逃げた。

「なんで逃げんの」
「近づいてくるからじゃん」
「近づいちゃいけないわけ?」
「いけないわけじゃないけど、理由がわかんないから怖い」
「怖くないし」
「怖いよ!」

じりじりと近づいてくる彼と同じように下がるあたし。
後ろに進むことが怖くて何かに当たらないか正面を確認していたら腕を掴まれて抱きしめられた。

「……心臓バクバクしてんね」

くすくす笑いながら言う。

「バカにして遊ぶなら他の人でしてよ!」

全力で両手を突っ張って離れようとするけど全然離れてくれない。
他に喋れば文句言いながら泣いちゃいそうで、離れることに精一杯の力を使った。

本当に嫌だ。
本当に本当に嫌だ。
自分の気持ちで遊ばれているのが嫌だ。

こんな時だけ男を出してきて、どうにもあがけなくする彼が嫌い。
好きでもないくせに、名前呼んで、隣で歩いて、カマかけて、抱きしめて離さないなんて、本当に性格悪い。

「ちょっと、多英。そんなに離れたいわけ?」
「もう本当冗談キツイ!あたしは他の女の子と一緒じゃないし!離してよ!!」
「他の女と一緒なわけないじゃん。見てわかんない?」

わかんないからこうして必死になってんじゃん!と、まだ頑張り続けてると手が離れた。

力使いすぎて息もあがってる。
これ以上、傍にいたら絶対泣く。
彼の顔を見ることなく帰ろうとしたけど、逃げれるわけなくて。

「多英」

名前呼ばれるだけで足が止まるなんて末期だと思う。
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