貴方の残酷なほど優しい嘘に
そのメールを見てふと、昨日私が送ったメールに対して返信がない事に気付く。だが、忙しかったからだろうと、それを頭の隅に追いやった。

起きて誠の姿がない事に、寂しさより安堵した。

『戻ってきてくれ!俺はお前がいないとダメだって気付いた!頼む!結婚してくれ!』

あんなにも幸せだった。誠を愛してると言った。

それなのに、私の心はそんな元彼の一言で簡単に揺れていた。

揺れた。

揺れた時点で、私は誠と過ごした時間を否定してしまっている。その事に気付いてしまったから、誠がいない事に安堵したんだ。


3日後、朝仕事に行く誠に私は言った。

「今日、帰ってから話し出来る?」

ほんの一瞬、気にしなければ気にならない程度の間が空いて、誠は返事をする。

「いいよ、ちょうど俺も話しがあったんだ。じゃあ行って来るね」

何時もの優しい眼差しで私を見て言った。

仕事が終わり。帰った私は上着も脱がずに誠が帰って来るのを待った。

今度は誠に送信ボタンを押してもらう訳には行かない、私が自分で押すんだ。

「ただいま、ゆかさん」

いつもと変わらない誠が決心を鈍らせたが、踏みとどまる。

「おかえり」

誠も上着を着たまま私の前に座り、言った。

「話し、俺が先でいい?」

私が頷くのを見て誠は口を開いた。それは何時もと変わらない誠の口調で、何時もと変わらない誠の優しい目で、いつもの同じ誠で、あまりにもいつも通りだったから、私は自分が聞き間違えたと思った。

「え、何?」

「だから、そろそろ別れよう」

「な、んで?」

「なんでって、飽きたし、このまま付き合ってたら本当に結婚しちゃいそうだし、おばさんの相手も面倒くさいし、冗談でしたじゃ済まなくなりそうだしね」

貴方はどうしてそうなの?

誰がそんな言葉を信じられるっていうの?

結婚しようって言ったのも、一緒に暮らそうって言ったのも、私の両親に挨拶に行くって言い出したのも、全部貴方だよ

そのどこに冗談があるってゆうの?

貴方は優しすぎる

私はまた誠に送信ボタンを押させてしまったんだ

自分で押さなければいけない送信ボタンをまた押させてしまった

涙が溢れそうになるのを必死で堪えた。私が今泣いたら彼の優しさが無駄になる。

彼の優しさに私が応えられる方法は一つしかない





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