貴方の残酷なほど優しい嘘に
「ごめん、違うの、そうじゃないの」

私は何をやっているんだ。誠君は私達の歌う曲にも全くつまらなそうな顔をしていなかったのに。彼の歌う知らない曲がつまらなかったわけじゃないと言えば嘘になるが、それ以上に別れのメールの事に頭が行っていたのだ。

そこで曲は終わり、部屋の中に静寂が落ちてくるが、その静寂はすぐに先輩が破った。

「どうしたの?」

雰囲気を察した先輩が言ったが、誠君は『なんでも無いですよ』と答えた。きっと彼は知っていたんだろう。私のした事が、先輩の凄く嫌いな事だとゆう事を。

だから、私が言った。このまま黙っていれば、先輩も深くは追求しては来ないだろうが、そんな卑怯な人間になりたくはない。

「誠君の歌を聴かないで、私が携帯電話見ていたんです」

「ゆか、あんたね女子高生じゃないんだから、携帯に依存する歳でもないでしょ?」

呆れた顔で先輩は諭すように言う。

「はい、すみません」

「それで?何があったの?」

先輩の問いかけの意味を汲み取れず私は首を傾げた。

「普段そんな事しないでしょ、だから何があったのか聞いてるの」

やっぱり、なんなんだこの人は。サトリ?

観念して私は先輩に携帯電話を渡した。黙って先輩はそれを受け取ると、開いて中を見ていた。

「なるほどね、ゆかが決めた事だからとやかく言うつもりは無いけど、あんたこれ送信出来るの?」

これもやっぱり。ちょっとだけ背中を押してもらえるかと期待したが、それは淡い期待だった。先輩はいつも話を聞いてくれたが、決断だけは自分でするように促した。1度その理由について聞いた事がある、先輩は『人に言われたからなんて逃げ道を残すのは卑怯だ』と言った。

真理だ。ただ、私はそんなに強くない。

「はい」

と、先輩が私の携帯電話を誠君に差し出した。

「え?ちょっと先輩!」

慌てて電話を取ろうして伸ばした私の手は空気を掴んだだけだった。私の手の届かない位置に電話を持ち上げて先輩は言った。

「これは誠にこそ見る権利があると思うけど?」

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