遠くのレモン
「わたしのなまえ、しってる?」

またおとこのひとは、めをパチクリさせた。
そのあと、ふあんそうなかおでわたしをみた。

「ほんとにそれ言ってる?俺のこと、分かんない?
自分の名前、ほんとに分かんないの?」

おとこのひとがなにをいってるのか、
わたしはわからなかった。

「あなたのこと、わからない。
わたしのなまえも、わからない。
なにも、だれも、わからない。」

おとこのひとは、すごくかなしそうな、かおをした。
すこしして、くちをひらいて

「君の名前は 相沢 せな だよ。
俺の名前は、木下 大樹。」

ふと、さっきのこえをおもいだす。

『セナ!セナ!セナ!』

あれ、わたしのことだったんだ。
このひと、ずっとわたしのなまえ、よんでたんだ。
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