この愛、スイーツ以上
安田さんは休暇に入る前日、この後北海道に飛び立つからと定時で帰社した。

何度も副社長と私に頭を下げて、少し不安そうな顔をしていた安田さんに副社長は「こっちのことは気にしなくていいから」と気遣っていた。


「吉川さん、今日予定がないのなら一緒にご飯を食べない? 安田さんのいない間のことをゆっくりと話したいから」

「はい、分かりました。特に予定はないので大丈夫です」


安田さんがいなくなった途端、突然二人だけで食事とは……つい不安になってしまうが、今後のことを私も話したかった。

話をするのに食事は必要ないとは思うが、頑なに断ることは出来なくて受け入れるしかなかった。

それから30分後、揃ってオフィスを出る。高級な車の後部席に副社長と並んで座った。初めて乗る車だが、これは普段副社長が通勤に使っている車で、井村さんという40代後半と思われる男性が運転をしている。

私は初めて会った井村さんに「よろしくお願いします」と挨拶をした。銀縁メガネの奥にある彼の目は微笑んだことで細くなり「こちらこそよろしくお願いします」と返事をしてくれた。
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