この愛、スイーツ以上
最初私の姿を見たときは、無表情で頭から爪先まで見るから怖い人なのかと緊張したが、優しく返してくれてよかった。


「涼太さま。行き先はご自宅でよろしいのですか?」

「いや。ごめん、何も言っていなかったね。んー、由梨は好き嫌いある?」

「いえ、わりと何でも食べられるのでどこでも大丈夫です」

「そうか、じゃあ福美土(ふくびと)に行って」


井村さんは「かしこまりました」と発進させた。

どこでも大丈夫とは答えたけど、副社長が言う福美土がどんな場所かは知らない。だけど、私みたいのが気軽に行ける店ではない気がして、ものすごく不安になってきた。

名前からして和食だと思うし、よく行っているところのようだから高級な料理店なのだろうと推測する。

マナーとか大丈夫だろうか。


「由梨」

「あ、はい」

「コロは元気?」

「はい、元気です。紫乃ちゃんも元気ですか?」


何の話をされるのかと背筋を伸ばしたが、犬の話だったので私は真っ直ぐにした背中の力を抜いた。コロと紫乃ちゃんの話なら気はらくになる。

だけど、ここで気を抜いたのはよくなかったようだ。
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