この愛、スイーツ以上
「東郷さま、いらっしゃいませ」


白い砂利の中にあるグレーの敷石を歩いて行った先に『料亭 福美土』の入り口があった。

引き戸ではあるが、自動ドアになっていて、センサーが作動してドアが開かれると若草色の着物姿の女性に颯爽と出迎えられた。

年齢は60前後といった感じで母と同じくらいかと思う。

副社長は無表情ではあるけれど、「どうも」と返していたからやっぱりよく来るお店なんだと感じた。


「お客様は初めてですよね? 私、女将の福本圭子と申します。よろしくお願いします」


にこやかに挨拶されたので、私も慌てて名乗って「こちらこそよろしくお願いします」と返した。

女将さんはまた副社長に向かって話し掛ける。


「奥のお座敷が空いていますので、そちらにご案内させていただきますね」

「すみません、予約しないで来てしまって」

「いいんですよ。でも、空いていてようございました」


よく来ているから気心が知れているのか副社長の話し方が穏やかに聞こえる。私は二人の後に続いて歩きながら、副社長の様子を観察していた。
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