崩壊寸前の国を人間破綻者が救う時
偽お母さん
周りはセメントの壁で囲まれており殺風景のなんとも悲しい部屋(牢獄)。
しかしこの部屋(牢獄)には重量扉が建てつけられている。
その扉は灰色で全く部屋(牢獄)の外が見えない。
音は響いてやっと聞こえるぐらいだが 。
色鮮やかとは真逆。悲しみを基調としたような絵画を連想させる。
壁の上方には鉄窓が備え付けられておりそこからかすかに風が吹いてくる。
その風はもう十分なほど寒い部屋にもっと寒さを呼んでいる。
上着を何枚も着ないと寒さで震えが止まらなくなるほどだ。
そんな部屋の隅に膝を抱え石畳の床を見ながら小さく呟いている生傷だらけの少年がいる。
その少年はこの極寒の部屋には似合わない今にも破れそうな薄着の洋服を着ている。
彼の髪は手入れされていないのか髪は四方八方にはねている。
それに彼からはひどい臭いが漂ってくる。
からすも近づきたくないような汚物以上の臭い。
彼の爪先には肌カスが大量にへばりついている。
するとコツコツと靴音が響いてくる。
誰かがやってきたのだろうか。
靴音が聞こえてきた瞬間先ほどまでの彼から想像できないような表情を浮かべ始めた。
先ほどまで衰弱仕切ってそう遠くない死を待つだけの老人のようだったのに。
今では誕生日プレゼントを買ってもらう子供のように期待した笑みを浮かべていた。
「来た、来た、来た。お母さん?来てくれたの?」
彼はまだ靴音しかしないのにもう見たかのように相手の事を呼ぶ。
しかし完全に灰色の重量扉のせいで靴音の主が見えない。
「何か言ってよ? ねー? いるんでしょ。」
彼は段々と我慢の限界に達してくる。
阻まれている分厚い扉と壁のせいで顔が見えなく返事もしてくれないのが不安なのだ。
「ねえーーー、いるんでしょ?答えてよおお。」
彼は等々我慢の限界に達したのか怒りを表すように叫ぶ。
「お願いだから………返事を………して」
彼は叫んで怒りを覚えたがそれでも返事してくれない相手に対して悲しみと寂しさを覚え始め涙声で願った。
彼は一瞬でもいいから声が聞きたかっただけなのに。
ここまでしたのに。
結局返ってきたのは靴音の静止と何もない沈黙だけ。
「……………」
彼は、少年は、また先ほどの体制に戻り感情を殺しながら部屋の隅にいる。
すると————
『ノン。元気にしている?』
重量扉の向こう側から聞こえてくる声は先ほどまでの靴音の主の声だと思われる。
優しい穏やかな声。体を毛布が包んでくれているような穏やかな感覚に駆られる。
その美しい声の正体は———
「お母さん!お、お母さぁぁぁん!! 会いたかったよぉ、声が聞きたかったよぉ。
嬉しい。」
その声を聞いた瞬間少年ことノンは満面の笑みで最高の笑顔になった。
しかしノンは気づいていない。
その扉のむこうには
『…………』
誰もいないことを。
先ほどまでの靴音はノンの幻聴。
お母さんの声も作り上げのただの偽物。
ノンにだけ聞こえる記憶の中からのお母さんの最後の声である。