俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
『莉依……』

大河の掠れた声が鼓膜を震わせる。
心細くて、迷子の子どものような声だった。

「どんな鬼社長でも、受け入れてあげるから大丈夫」

抱きしめてあげたい――誰かに対してそんなことを思ったのは、生まれて初めてかもしれない。
今まで散々助けられた私が、今度は助けに――本人に聞かれたら笑われてしまいそうだけれど。

『まったくお前は……柄にもなく頼もしいこと言って』

クスリと笑った大河の声からは重苦しさが抜けていた。
私が彼になにができるかは別として、少なからず気持ちだけは伝わった、そんな気がする。

『……仕事中は、もう俺に話しかけるなよ。優しい言葉なんてかけてやれねぇから』

「いらないよ。優しくなんてしなくていいから、話しかけさせて。私は大河の秘書なんだから」

『……ありがとうな』

泣きそうに言ったそのひと言に、胸の奥がきゅうっと締めつけられた。
どうしてこんなときに限って大河は手の届かない場所にいるのだろう。この一週間、嫌でもすぐそばにいたのに。

触れたい。届かないこの右手が忘れかけた彼の感触に疼いてしまう。

思わずこぼれてしまったのは――

「会いたい……」

純粋なわがままだった。

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